セルフエスティームについて

セルフエスティームとは、自分が自分のことを好きと思えること、自分を大切だと思える気持ち、自信をもって今の自分でOKだと認めることができること。日本語で言えば、自尊心というような訳ができるのでしょうか。

 人にとってこの当たり前のことがどうも当たり前ではなくなってきているようなのです。最近こちらに来られるクライアントさんの多くの方が、このセルフエスティームを持てないでいるようなのです。自分を好きになれない、自分が嫌い。鏡を見るのも嫌になってしまう。自分なんてつまらない、取るに足りない存在だという感覚。自己嫌悪の状態、自己イメージの低い心の状態だということができます。

 人は誰も嫌いな奴に対して、幸せになって欲しいなどとは考えないものです。それは嫌いな相手が自分自身であっても同じなのです。嫌いな自分を幸せにしようなどとは思わないのです。だから、頭でいくら幸せになりたいと願っているとしても、自分の正直な気持ちを持つ潜在意識は、こんな奴絶対幸せになんてするものかと思っているのです。自分が持っている能力も、それを充分に発揮することを許さないし、人生をいい方向に持っていこうとするチャンスも意図的に逃してしまうことになってしまいます。

 ではなぜ、セルフエスティームを持てなくなってしまうのでしょうか?それを知るには人生の初めの頃に戻って検証することが必要です。人は生まれてすぐには自分では何もすることができません。生きていくためには両親にすべてを委ねて成長することになります。そのために、生まれたての赤ちゃんから小学校に行くようにになるまで、まるで火の玉のように愛情を渇望するのです。どんなに愛情をもらっても多いということはありません。溢れるばかりの愛情を一身に受けて、そしてすくすくと育っていきます。ところが、すべての母親や父親が愛情豊かに子供に接することができるわけではありません。そればかりか、ほとんどの両親は何かの問題を抱えて生きていることが多く、人間としても子供の親としても完成した存在ではないのです。親も自分のことで精一杯で子供に愛情を注ぐ余裕がないのです。

 沢山の愛情を期待していた子供は、自分に必要なだけの愛情が注がれていないことにすぐに気がついてしまいます。そしてなぜ、母親は自分を愛してくれないのだろうと考えます。幼い子はここで大変な考え違いをしてしまうのです。自分が愛されないのは、親の方に原因があるとは思わずに、自分が悪いのだと思うのです。自分が悪い子だから、自分が愛されるに値しない子だから愛してはもらえないのだと自分を責めてしまうのです。生まれたての赤ちゃんや幼子に責任なんてあるはずはないのですが、子供は例外なく自分に原因があると決め付けてしまいます。そればかりか、逆にそのダメな親をかばおうとまでするのです。

 子供はどんどん自分を責めて、自分自身のことが嫌いになっていきます。親から愛されない自分なんて、ダメな奴だって思ってしまいます。自分の価値を認められなくなってしまうのです。これが、大人になっても自尊心を持てなくなってしまう一つの大きな要因なのです。セルフエスティームを持てない状態では、人は様々な問題をかかえることになってしまいます。

 愛されない子供は、何とかして愛されたくて親にとってのいい子になろうと努力します。親を怒らせないように常に気を張って、機嫌を損ねないようにと頑張ります。しかし、問題は自分にあるのではなく、親の方にあるため、これは不毛な努力となります。つまり、頑張っても頑張っても叶えられない望みとなるのです。したがって、いつまでたっても満たされない気持ちを持って生きていくことになります。

 この決して満たされる事のなかった子供の頃の気持ちの状態が、実は大人になってからも厳然と生きており、それとは気付かないうちに漠然とした不安感やなんとなく満たされない心の状態として感知されるようになります。満たされない気持ちは、他への依存を起こすこともあります。アルコール中毒やギャンブル中毒、摂食障害など、多くの依存症のもととなります。依存を起こしているのは、心の中に生きているあの満たされなかった子供なので、理屈で説得しようとしても無理なのです。だから、普通の食事をした後でお腹がいっぱいであるにもかかわらず、意味ないと分かっていてもまた食べてしまうと言った事が起こるのです。しかし、満たされない理由はそこにはないために、この依存は永遠と続くことになってしまいます。

 また、常に良い子でいようとした子供は、常に自己嫌悪を感じて生きています。そのままの自分でいることができないのです。あるがままの自分は、人から評価されるような存在ではないと思っているために、いつも気を張って人の目が気になるようにまでなってしまいます。大人になってもこの生き方は決して変わらず、一人でいる時以外は常に緊張を強いられることになります。このような緊張状態にある人は肩や背中が硬く凝っていることが多いのです。自分以外の全ての人それぞれが自分に対する評価者となるために、大勢の人と一緒にいることがとても苦痛に感じることになってしまいます。自分では自分を評価することができずに、人の評価がすべての価値基準となってしまうのです。

 このように考えてみると、セルフエスティームを取り戻すことがいかに大切なことであるかが分かります。しかし、どうすれば、自分のことを好きになれるのでしょうか?どのようにしたら、自分自身に対してそのままでOKを出してやることができるようになるのでしょうか?実はそれをするのが癒しなのです。人は癒されると自分の本当の価値に気付き、そのままの自分でいいんだということを腹の底から分かるようになります。